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ルリ1

 私は、何があっても腹を立てない人間、というわけではない。そんなに高尚な訳がない。怒ることができない人間、というわけでもない。臆病なだけである。今怒ったら、すべてを無くしてしまうと分かっているから。だから今は、我慢するしかない。平気な顔をして、理解あるふりをして、我慢するしかない。

 あれは、2年前の冬。12月に入ったばかりだったかしら。仕事から帰ると、アパートの自転車置き場で小さな鳴き声がするの。見ると、本当に小さな子猫が震えるか細い声で鳴いていた。お腹がすいているのかしら?まだ生まれて間もない様子なのに。親猫はどうしたのかしら?どうして、たった一匹、こんなところに居るの?
 手のひらに乗りそうなほどの薄茶色な子猫。その真っ黒な瞳は、痩せた体のせいか一層大きく見える。部屋に連れて行きたいけれど、アパートではそれができない。後ろ髪引かれる思いで、子猫をなるべく風の通らない場所に置いて、私は部屋の鍵を開けた。

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