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2008年4月

明来7

 金沢から2時間20分で、汽車は終点の輪島に到着した。途中姿を現した海は、七尾湾であった。―それで能登の海にしては穏やかだったのか―七尾湾が見えなくなると再び線路の両側は山で囲まれ、そのままの景色を40分ほど保ったところに輪島がある。

 その晩、明来は輪島に泊まることにした。夜汽車の疲れが一度に襲い、宿に着くともう何もしたくない気がした。宿は、輪島市内のはずれに位置する海のすぐそばの民宿である。宿の予約をせずに東京を出てきたので心配ではあったが、そこは旅の良さである。

 

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ルリ6

月曜日の夜。私の部屋には、お醤油とみりんの溶け合った香りが漂っていた。マロンにもわかるのか、しきりに鼻をクンクンさせている。男の人が、食べたい手料理のNO.1に「肉じゃが」をあげていたのを、以前雑誌で見かけた。お腹がすいてきたが、上手にできあがった肉じゃがを前に、私とマロンはお迎えを待った。

 マロンの小さな身体がピクリと動くのと同時に、部屋の呼び鈴が鳴った。
「ただいま~、マロン。……あ、いい臭いですね。」
「肉じゃがを作ったのですが、召し上がっていきませんか。」
「いいんですか。もう、お腹ぺこぺこで~。」
「どうぞ、お上がりください。」
「では、お言葉に甘えておじゃまします。マロンはいい子でしたか。」
「はい、とっても。ずっと一緒に居たいくらいです。」
「ありがとうございます。おおっぴらに飼えたらいいのですが……、本当に助かります。」
「いいえ。よかったら、温かいうちに召し上がってください。」
「はい。遠慮なくいただきます。」

 仁さんは、おいしいおいしいと言って、たくさん食べてくれた。マロンにもつぶしたジャガイモとスープを与えながら。猫用ミルクとキャットフード以外の食べ物を初めて口にしたマロンだったが、しっぽを振りながらジャガイモを食べていた。
 ずっと一緒に居たいくらい、嬉しかった。

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ルリ5

土曜日は朝からそわそわした。部屋の呼び鈴が鳴るのを待っている私がいる。猫の離乳食はあまりないのだということが分かった。しかも、牛乳を飲ませるのは良くないのだということも分かった。ちゃんと猫用のミルクがあるのだということ、キャットフードを柔らかくすれば良いのだということを調べ、マロンを待った。そう、マロンを待っているのよ。

 お昼を過ぎた頃、チャイムは鳴った。一週間ぶりに会うマロンは、ほんの少しだけれども大きくなっているような気がした。
「すみませんが、今週末も預かってもらっていいですか。」
「はい。あのお、何が好きですか?」
「あ、まだミルクしかあげていないのだけど……。」
「あの、そうじゃなくて、あなたの好きな食べ物って、何ですか?」
「僕ですか。何でも食べますよ。」
「そうですか……。あのお、お名前を伺ってもいいですか。」
「あ、すみませんでした。名乗ってもいなかったですね。仁といいます。」

 じゃ、行ってくるね、とマロンに告げたときの笑顔が頭から離れなかった。私は、マロンの背中を何度もさすりながら、「仁っていうんだ」とつぶやいていた。

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