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2008年6月

明来11

 夏の終わりの夕方といっても、まだじめじめと蒸し暑い。約束の4時をちょうどまわった頃、携帯電話にメールが入った。少し遅れるので、待っていて欲しいということだった。はじめから遅刻か、と少し不愉快になり、これ以上「いけふくろう」のに前に立っていたら貧血を起こしそうだったので、私は近くの喫茶店に入り、場所を指定するメールを返した。

 いつものようにアイスミルクティーをたのみ、読みかけの本に集中し始めた頃、
「遅くなってすみません。」
という明るい声が私の前で聞こえた。
 長い髪に白のワンピースと伝えてあったので、私が待ち合わせの相手だと分かったようだ。
「明来さんですか?」
という元気な問いかけと思い切りの笑顔に、先刻の不愉快さはどこかへ消え去ってしまった。私が「はい」と応えるのと同時に、ウエイトレスさんがオーダーを取りに来た。「アイスコーヒー」という予測した応えに反して、
「コーラ」
には、少しとまどった。

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明来10

 「いけふくろう」の前で流れる人の波をぼんやりと眺めていた。足早に行き過ぎる人の数だけそれぞれの人生があるわけなのに、不思議と妙に乾いて魂を持たない生き物のように感じられた。いつの間にか、その中に和哉の姿を探していた。再会したあの日から、また4ヶ月という時間が無意味に動いていた。少し長い髪、センスのある眼鏡、男性にしてはきめの細かいきれいな肌、シャープな横顔。歩きながらくわえタバコに灯をつけて、私の前を通り過ぎるんじゃないかしらとドキドキした。    

 とりあえず、インターネットでいろいろと検索し、バンドのメンバー募集にいくつか問い合わせをしてみた。といっても、何か楽器が演奏できるわけでもなく、歌を習ったことがあるわけでもなく、様々なジャンルの音楽を聴きあさったわけでもなく、音楽に関して無知でど素人の私を加入させてくれるバンドなどありはしない。よく分かっていた。

 それでもこうして、見知らぬ人との待ち合わせを何回繰り返したことだろう。語ることのできない自分のPRをどう話そうかと、何とか和哉と繋がることに必死だった。

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