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2008年10月

明来19

 「今日は、胃の調子が悪くて…、ごめんなさい。トンカツはまたこの次でいいかな?」
 10分遅れて待ち合わせ場所に来るなり、まさしさんは言った。
「大丈夫ですか?じゃあ、何かさっぱりした物食べますか?」
内心、トンカツには縁がないのかなと思いながら私が聞くと、
「う~ん、明来さんの手料理が食べたいな。」
と、子どもみたいな笑顔で応えた。
「美味しい豚汁ですか。」
「うん。」
「豚汁も脂っこいですよ、大丈夫ですか?」
「明来さんの手料理だったら大丈夫!」

 私のアパートは渋谷から私鉄に乗り換えて20分。その時間が、いつもよりとても短く感じた。大学生になって独り暮らしを始めてから、男の人を部屋に招くのは初めてだ。なぜだか、和哉のアパートが脳裏を横切った。  

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ルリ18

 出勤の電車に揺られながら、私はなぜか不安を感じていた。幸せな朝を迎えたはずなのに、どうしてかしら。
 仕事に間に合わなくなるといけないからと仁さんを起こすと、彼はバタバタと支度をして出かけていった。いってきますの代わりに、私の頬に軽くキスをしていったけれど、唇を寄せる前の瞬時、彼の瞳は幸せや喜びを語ってはいなかった。どちらかと言えば、何か計算めいたような。ただの気のせいだといいのだけれど。「忘れ物?」と聞くと「いや」と、いつものとびきりの笑顔に戻って仕事に向かった。
 仕事。そう、彼の平日の仕事も私は知らない。土日は何をしているのか、夕べの私の質問にも、結局彼は応えなかった。
 電車の振動に、私の心まで揺れ動いた。

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ルリ17

 東の窓から差し込む朝日を頬に感じ、私は目を覚ました。寝ぞうの良い私は、自分のシングルベッドを狭いと思ったことはなかったけれど、今朝は少し窮屈さを感じていた。私の右側でまだ眠っている仁さんを起こさないように、そっと起きあがってテレビのスイッチを入れた。
「おはよう、マロン。」
一緒にベッドに入れなかったマロンが、テレビの前で丸くなっていた。
 6時30分。あと少しだけベッドに居よう。目覚めたときに、誰かが隣にいる幸せ。ぼんやりとテレビを眺めながらベッドでまどろむ幸せ。些細なことかも知れないけれど、私にとっては初めて味わう幸せだった。仁さんが起きたら、私はどんな顔をすればいいのかしら。

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ルリ16

 「ねえ、聞いてもいい?」
「なに?」
「土日は、どんなお仕事しているの?」
果物もたくさん入り、ハチミツで甘くした手作りジュースをマドラーでかき混ぜながら、仁さんとは目を合わせずに軽快に質問してみた。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「どうして…って、仁さんのこと、もっと知りたかったから…。いけないかしら?」
「いけなくないよ。ジュース、美味しいね。……今夜は、この部屋に泊まっていってもいい?」
「うん。」
「明日も仕事だし、早めに寝ようか。」
「うん。」
小さくうなづいて、もう一口ジュースを飲んだ。甘かったはずのジュースの味がわからなくなっていた。

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