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2008年11月

明来22

 渋谷のデパ地下でバイトしている私は、今日はあまり街に出たくなかった。だって、風邪で休んでいることになっているわけだから。
「パソコン、無いの?」
「買おうと思っているんです。必要に迫られているんですが、何を買ったらいいのか判らなくて。」
「じゃあ、見てあげようか?」
「パソコンに詳しいんですか?」
「いちおう、IT関連の仕事してるから。」
「そうなんですか!じゃあ、お願いします。」

 まさしさんの仕事のことが少しわかり、なぜだかほっとした。会社のこととかは詳しくきかなかったものの、何をしている人なのかぐらいは知っておきたかった。なるほど、パソコンにはかなり詳しいようだった。私の狭い部屋には、やはりノートパソコンが便利であろうということになり、手頃な物を選んでくれた。とっても欲しかったので、嬉しかった。
 一度部屋に戻り、まさしさんはインターネットの接続をしてくれた。
「音楽するにも、パソコンは必需品だよ。」
と、夕食の後帰っていった。

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明来21

 独り暮らしの私の部屋には、一組の蒲団しかない。狭い寝床に二人で過ごす一夜は寝苦しく、何だか寝不足を感じる。
 ゆっくり話したいからと言った昨日の夕食後も、私に質問するばかりで、まさしさんはあまり自分のことを話さなかった。それでも、ご両親は既に亡くなられているということ、妹さんが一人いらっしゃるが、音信不通だということを話してくれた。そして、高校生の時からドラムを始め、今までにたくさんのバンド歴があるということ、長く続けられるバンドがやりたいということも話してくれた。ドラマーと聞いて、また和哉を思い出してしまった。
 「バイト、休んだら?」
時間になったので、そっと蒲団から出て支度を始めた私に気づいたのか、まさしさんが言った。
「う~ん。」
少し考えたが思考は働かず、
「そうね。風邪ひいたことにします。」
そう返事をしていた。

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明来20

 私の狭い部屋には、豚汁のにおいが充満していた。三杯目のまさしさんのお代わりをよそりながら、内心、ちょっと驚いていた。
「そんなに豚汁好きなんですか?」
「うん。好きだし、独り暮らしだと、なかなかこういうの食べられないから。」
「独り暮らしなんですか?」
「うん。」
そういえば、私はまさしさんのことを何も知らなかった。池袋から私鉄に乗り換えて数駅というのは、彼の独り暮らしのお部屋なのかしら。聞き返そうとしたけれど、彼が自分から話してくれるのを待ちたいとなぜか思った。
「今夜はゆっくりといろいろな話がしたいな~。泊まっていってもいい?」
「え……。明日は日曜だけど、午後からバイトが入っているんですが……。」
「あ、じゃあ、明来さんがバイトに行くとき、一緒に出るから。バイト、土日もやっているの?」
「はい、どちらかは。」
「音楽活動するなら土日でしょ。バイトが入っていると、きついよね。」
「そうなったら、土日のバイトは考えます。」
なるほど、と思った。趣味を持つということは、時間をうまく使わなくちゃいけないんだ。今夜、泊まってゆく。和哉の部屋にあった2本の歯ブラシの意味が、今になって鮮明に私の中に理由付けられた。

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